type1. 人を欺き、篭絡する華やかな魅力:たぶらかスーツ
実業家に詐欺師にジゴロなどなど、騙し騙され翻弄するためのツールとしてスーツは使われる。誰かを魅了・篭絡(seduce)する男性主人公の武器として使われるスーツは華やかでわかりやすいため、ファッション誌で「おしゃれ」と紹介されがちだが、スタイリングの見本にするのはちょっと待った。キャラクターの多くは「化けの皮がはがれる」結末が待っているため、実はわざと着こなしを失敗させたりしているので要注意。
『アメリカン・ジゴロ』(1980) ── アルマーニが引き出したリチャード・ギアの官能性
男娼が主人公。この時代、設定自体が新鮮だった『アメリカン・ジゴロ』。劇中のスーツは男性エスコートを演じたリチャード・ギアの肉体と魅力を際立たせるための演出として機能した。
色とりどりのスーツはアルマーニの軽やかでゆったりしたテーラリングで、脱がされたり、はだけたりと、隙間から見せる肌の官能性を演出として使用していた。
『オーシャンズ13』(2007) ── 詐欺師たちの洗練されたダブルスーツ
詐欺師集団が活躍する人気シリーズ『オーシャンズ』は今も人気は衰えず、2027年6月に前日譚が公開予定。2000年代のスティーブン・ソダーバーグ版の色男ラスティ役はブラッド・ピット。オーソドックスなダブルのスーツは前身ごろのカッティングで粋な雰囲気を演出。パンツの裾が引きずるくらい長めに取られている理由は作品を観れば確認できる。
『華麗なるギャツビー』(2013)── 成り上がりの欲望を表す華やかな衣装
フィッツジェラルドの原作に忠実に、ブルックス・ブラザーズが男性衣装の提供・協力を担当した。衣装デザインはキャサリン・マーティン。
バズ・ラーマン監督版『華麗なるギャツビー』 のタイトルロールを演じたのはレオナルド・ディカプリオ。必要なものをすべてきっちりを着こなしているため小物づかいは見本になる。でも要注意なのは、ジェイは成り上がりという設定であること。マナーブック通り完璧に仕上げた結果「野暮ったい」状態になっていることは忘れてはいけない。
『華麗なるギャツビー』(1974)── ピンクのスーツに込められた階級意識
こちらはロバート・レッドフォードがギャツビーを演じた、1974年版。このピンクのスーツにラウンドカラーのシャツの組み合わせは作品を代表するスーツ。ラルフ・ローレンがギャツビーの衣装を担当した。
だが、これはギャツビーが「旧来の上流階級から見れば、装いが成金的に映る」ことを描写するために、1920年代のスコット・フィッツジェラルドがわざわざ設定したもの。現代だとおしゃれに見える(かもしれない)が、あえて真似をするなら、そもそもなぜこの着こなしなのか、背景を知っておくと恥をかかずに済みそう。
type2. 軍服というスーツの起源を見る:闘いまスーツ
ジェームズ・ボンドからメン・イン・ブラックまで、兵士に軍服があるように、「闘う男」には戦闘服としてのスーツがつきもの。軍服に起源の一部をもつ、スーツの歴史が透けて見える。
『パルプ・フィクション』(1994) ── 任務に臨むエージェントの正装
制服スーツの決定版と言えるのが、クエンティン・タランティーノの代表作『パルプ・フィクション』。無機質な黒と白の組み合わせが、一種の制服姿に見せる。不穏なスーツ姿に合わせたタイはスキニー。いかにも映画公開時期のトレンドを表している。
衣装デザイナーのベッツィ・ハイマンは同じように見えるスーツを、キャラクターの人物像ごとに素材や襟、シルエットで差をつけているところは、「さすがプロ」と唸ってしまう。
『ミッション:インポッシブル/ゴースト・プロトコル』(2011)
もはやトム・クルーズのライフワークとなった『M: I』シリーズ。『~ゴースト・プロトコル』では、エージェントが揃って、政治家のようなベーシックな高級スーツで任務地に到着するシーンは圧巻。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021) ── トム・フォードが仕立てたジェームズ・ボンドの戦闘服
同じスパイ映画でもため息が出るくらい、とことんおしゃれなのが『007』シリーズ。英国エージェントが纏う2ボタンスーツはトム・フォードのデザインで、ラペルが狭くタイピンとちらりと見せるポケットチーフが胸元に水平のラインをつくり、細くシャープな印象を強めている。
『キングスマン』(2015) ── サヴィル・ロウの仕立て屋を舞台にした英国スーツ
英国スパイものでもうひとつ世界的ヒットとなったフランチャイズシリーズが『キングスマン』。スパイ組織の基地が仕立て屋の地下にある設定からしてスーツが美しいのは言わずもがな。
基地のモデルになっているのは実在のビスポークショップ、ハンツマンのサヴィルローの店舗。第1作のスーツはマシュー・ヴォーンと衣装デザイナーのアリアンヌ・フィリップスが考案したが、後続作品では一部衣装制作に関わった。それだけに正統派の英国スーツが堪能できる。
『メン・イン・ブラック:インターナショナル』(2019) ── エージェントの黒いスーツと匿名性
エイリアンを取り締まるエージェント『メン・イン・ブラック』が活躍するこのSF映画はもちろんブラックスーツが制服。1997年版(トミー・リー・ジョーンズ×ウィル・スミス)から20年以上を経た、スピンオフ作のブラックスーツはポール・スミスが手掛けた。
『ジョン・ウィック』(2014) ── 喪と復讐を象徴するオールブラックのスーツ
こちらも全身黒一色。ばったばったと敵を皆〇しにしていく、暗殺者ジョン・ウィックは怪しさ満点のこの出で立ち。ネクタイをしていることもわからないほど黒オンリーなのは、彼の闘いが“弔い合戦”(亡き妻の記憶と、妻が遺した犬を奪われた悲しみを背負う)であることを考えれば当然。暗殺者としての匿名性、喪、機能性など複数の解釈が可能になっている。
掟破りをした暗殺者の反撃を描いた本作は、とにかく血しぶきがすごい。アクションシーンの度に血のりを浴びるため、技術的にも全身黒は合理的な選択と言える。
type3. 素顔を隠すドレスアップアイテム:サイコパスーツ
スーツがおしゃれな映画といえばサイコパスもの。映画には「IQの高いサイコパス・ソシオパスが残虐性を隠し持っている」という(偏見に基づく)キャラ設定がよくある。美しいスーツと残酷なシーンのギャップに観客は恐怖に慄くという訳。とりわけハリウッド映画では、1980年代~2000年代の間に、資本主義の権化となった金融系ヴィランがブランドものの「スーツを着た悪魔」として“爆誕”。ステータスシンボルとしてのスーツの典型が見て取れる。
『アメリカン・サイコ』(2000) ── 1980年代のパワースーツに隠された虚無
貪欲の時代、1980年代のウォール街で活躍する投資銀行社員が実は快楽殺人鬼だったという物語。ハーバードを出て金融業で儲ける人間が、如何に社会から外れ、常識や良識からズレているか…ということをカリカチュアした原作者ブレット・イーストン・エリスの鋭い視点が反映されている。
ヴァレンティノなどを使用したと言われている劇中のブランドスーツやコートが演出するのは、高IQ型のサイコパス。IQが高いため自己演出に長けている変質者パトリック・ベイトマンを、美しく見せることで、観客は彼らに引き付けられ餌食になっていく被害者の視点になることができるわけだ。
『ウォール街』(1987)── ゴードン・ゲッコーを象徴する金融資本主義の装い
金融業界のサイコパシーをまさに1980年代に映像化したのが、言わずと知れた『ウォール街』。貪欲さの象徴としてモラハラ満載、金融系アメリカ人男性の悪いところを煮詰めたような主人公として造形された彼が着ているスーツはとにかくダサい。
ゴードン・ゲッコーは本来、貪欲な金融資本主義を体現する人物として描かれていた。しかし公開後、彼の強烈なスタイルは一部の観客から成功者の装いとして受け取られ、1980年代のパワードレッシングを象徴する存在に。だからこそ、服だけを切り取って模倣するのは危うい。
『リプリー』(1999)── 富裕層への憧れと他人になりすます男の衣装
倫理観がバグッている金持ちが同じく倫理観をバグらせ貧乏青年にやられてしまうという話⁉ 貧しい青年が、ひょんなことから大富豪の放蕩息子でプリンストン大(ニクイ設定!)の学生、ディッキーに近づくことに。
保守系の富裕層が通うイメージを、よくライバル校のハーバード大からいじられることもあるプリンストン大の“金持ち息子”を演じたジュード・ロウは、さすがの演技でサイコパス的演技を披露。衣装もそれを演出するように、1950年代の粋でリッチな着こなしをしている。
最初は魅力的な若者に憧れていたリプリーがディッキーの横暴によって次第に豹変し、サイコパシーを発揮。完全犯罪を目論む過程で、スーツまで変化していく姿は必見。

























