Google DeepMindのAIツール、音楽動画を瞬時に生成。“創造”はここまで簡単でいいのか?

Google DeepMindが音楽に特化した生成AIモデル「Lyria」と2つのAIツールを発表した。「Dream Track」では、アーティストを選択すれば、その声や楽曲スタイルを模倣した30秒の動画をすぐに生成できる。これは音楽の未来にとって何を意味するのだろうか。
Person standing in a dark room with their reflection in a mirror behind them
トロイ・シヴァンPhotograph: River Callaway/Getty Images

先日の「サタデー・ナイト・ライブ」を観ていなくても、ヒット曲「Got Me Started」のトロイ・シヴァンに扮したティモシー・シャラメの寸劇のことを知っている人は多いようだ。

「あなたは誰?」と聞かれると、シャラメは「オーストラリアのユーチューバーからインディーズポップスターに転身し、さらにはモデルから俳優に転身したトロイ・シヴァンを、オーストラリアのアクセントができないアメリカ人俳優が演じている 」と答える。最後には同じ格好したキャストたちと並んで、青いパンツにブーツ姿で腰を揺らし、タイトな赤い下着を見せる。

この寸劇は、シャラメたち“トロイ・シヴァン・スリープ・デーモンズ”が、あちこちのストレート女性の夢に登場していたという設定だった。皮肉なことに、昨今のシヴァンのモノマネの中で、こちらはマシなほうだった。

アイデアを育むツール

Google DeepMindは16日、「これまでで最も先進的な人工知能(AI)音楽生成モデル」とする「Lyria」と、Lyriaを用いたふたつの「実験」について発表した。

ひとつは「Music AI tools」で、メロディーを口ずさむとギターのリフになったり、キーボードソロを合唱に変えたりすることができる。もうひとつは「Dream Track」と呼ばれるものだ。

これは、T-Pain、シーア、デミ・ロヴァート、そしてトロイ・シヴァンといったアーティストの声や楽曲スタイルをAIが模倣して、30秒のYouTubeショート動画を瞬時につくることができるようになっている。トピックを入力し、アーティストを選ぶだけで、ツールが歌詞を書き、バックトラックを制作し、選択したアーティストのスタイルで曲を歌う。すごいものができてしまったと思った。

わたしが恐れているのは、「サタデー・ナイト・ライブ」に出ていた女性のように、トロイ・シヴァンの偽物が何百万人も夢に出てくることではない。クリエイティブな仕事は、こんなに簡単であってはならず、もっと難しいものであるはずなのだ。映画『プリティ・リーグ』のジミー・ドゥーガン(トム・ハンクス)の言葉を借りれば、「難しくあるべきだ。そうでなければ、誰でもできる。難しいからこそ素晴らしい」ということだろう。

確かに、チャーリー・XCXのスタイルで釣りをテーマにした歌をつくるよう、機械に頼むのは楽しい(少なくとも面白い)。しかし、チャーリー・XCXの歌がいいのは、彼女の信念が溢れているからだ。アイコナ・ポップの「I Love It」のように、ほかの人のために書いた曲からも伝わってくる。ハリウッドの全米脚本家組合(WGA)ストライキでデモ参加者が掲げていた看板の言葉を借りよう。「ChatGPTに、幼少期のトラウマはない」のだ。

LyriaやDream Trackに理想的な使い道がないわけではない。Dream Trackや類似のAIツールは、何よりもアイデアを育むためのものであり、「アーティストとファンがつながる新たな方法を試す」ことを目的としている。ビルボードチャートの上位にランクインする作品を生むのではなく、YouTubeに新しい実験的なノイズを作ろうとしているのだ。

ほかのアーティストとともにDeepMindに楽曲使用を許可したロヴァートは、次のようにコメントしている。AIはアーティストの働き方を根底から覆すものであり、「わたしたちは未来を形づくる一端を担わなければならない」と。

グーグルが発表した最新の“AI音楽おもちゃ”は、厄介な時期に登場した。生成AIは、グーグル所有のYouTubeと著作権にまつわる地雷原のようなものを作り出してしまう。AI音楽という新たなジャンルの流入に対処しているグーグルは同時に、YouTubeに登場するアーティストたちが所属する音楽レーベルへの支払い合意にも対応しなければならないのだ。

数カ月前、ドレイクとザ・ウィークエンドにのコラボ曲に見立てたAI生成曲「Heart on My Sleeve」が流行した。このとき、2人が所属するユニバーサル ミュージック グループは苦情を出し、曲は複数のストリーミングサービスから姿を消した。

ジョニー・キャッシュの遺産管理人は、キャッシュのAIが生成した「愛しのバービー・ガール」のカバーを止めようとしていないようだが、それでもこの技術がアーティストにとって難問なことは変わらない。

フェアユースの問題

アーティストたちの選択肢はいくつかある。グーグルのような企業と協力して自分たちの楽曲を使ったAIツールをつくること。ホーリー・ハーンダンやグライムスのように自らツールをつくること。あるいは、自分たちの作品で学習させたAIが生成した楽曲に著作権法が適用されるか確認して反発するか、何もしないかだ。現時点では、すべてのアーティストがこの問題のことを考えていることだろう。少なくとも、この問題についての問いかけは、されているはずだ。

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AI音楽に著作権がどう適用されるかについて、最近興味深い答えがでた。15日、Stability AIのオーディオ・チームの責任者であるエド・ニュートン=レックスが辞職した。理由は、「著作権で保護された作品で生成AIモデルをトレーニングすることは『フェアユース』の範疇」という会社の意見に同意できなかったからだとXに投稿している。

同社の広報アナ・ギレンは「エドのStability AIへの貢献に感謝し、今後の活躍を祈っています」とコメントした。エドの投稿についてさらなるコメントを求めたが、同社からの回答はなかった。

著作物を使用するAIモデルが、米国法やそのほかの法律の下でフェアユースにあたるかどうかについては、激しい議論が交わされている。著作権がAIに対応できるのかが試されており、この動向は今後のクリエイティブツールとしてのAIのゆくえを左右することになるかもしれない。

ニュートン=レックスは退職時のコメントのなかで、フェアユースにあたるかを判断するための4要素のうち、作品が持つ潜在的な市場価値について言及した。「偽ドレイク」は、本物のドレイクの潜在的な売上に影響するのか? AIが生成した「ジョニー・キャッシュによるテイラー・スウィフトのカバー」がつくられると、キャッシュやスウィフトはなんかしらの支払いを受けるべきなのか? 答えは定まらないが、ニュートン=レックスが書いているように「今日の生成AIモデルが、学習データである作品、つまり著作権に保護された作品と競合する作品を作成できるのは明らか」である。

ファンの受け止め方

一方、ファンにとっては、Dream Trackを使ってT-Painのなりすましを作り、風変わりなTikTokを投稿できるのは魅力的だ。何よりT-Pain自身がそれを受け入れている。それでも、シーアによるシーアのトラックを求める熱狂的なファンは、「Chandelier」並みの名曲ではない楽曲は望まないだろうし、AIがそれを生み出すのは不可能だ。

一連の議論は、犬のニッパーを思い出させる。RCAレコードのロゴにもなった犬のことだ。ニッパーがシリンダー式蓄音機に耳を傾ける絵は1899年に描かれ、「His Master's Voice」と呼ばれている。ニッパーは亡き飼い主(Master)の声を聴いているのだが、重要なのは、ニッパーがレコードから聴いた声を本物だと思った点だ。

100年以上もの時間をかけ、音質は向上し、よりクリアに、より生演奏に近い音が再現されてきた。デジタルはレコードほどいい音は出せないという意見もあるだろうが、どちらも“本物”の音、つまり、その音が生まれた瞬間のクリエイティビティを捉えたような音を出すことを目指してつくられている。AIはある程度のレベルまでは到達するだろうが、好きなアーティストの声が生み出す、輝くような体験をつくりだすことはできないかもしれない。

(WIRED US/Translation by Rikako Takahashi, Edited by Mamiko Nakano)

※『WIRED』によるAIの関連記事はこちら。音楽の関連記事はこちら。


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